「覚える」と「憶える」は、どちらも「おぼえる」と読めるため、文章を書いていると迷いやすい表記です。特に「記憶のことなら『憶える』の方が合っているのでは?」と感じる人もいるかもしれません。
ただ、学校の作文や仕事の文章など、ふだん使う場面では判断はそれほど難しくありません。まずは、いちばん実用的な基準から押さえておきましょう。
「覚える」と「憶える」はどっち?迷ったら「覚える」でOK
結論からいうと、どちらにするか迷ったら、基本は「覚える」と考えて問題ありません。
「覚える」は、勉強して身につける意味だけでなく、「名前を覚える」「昔のことを覚えている」のように、記憶に関する意味でも普通に使えます。学校の作文やレポート、仕事のメール、一般的なWeb記事などでは、「覚える」と書くのが分かりやすいでしょう。
では、「憶える」は間違いなのでしょうか。ここが少しややこしいところです。
「憶」という漢字そのものは常用漢字ですし、「憶える」という表記が日本語としてまったく存在しないわけでもありません。ただし、文化庁の常用漢字表では、「おぼえる」という訓が示されているのは「覚」です。「憶」には「オク」という音読みが示されています。
そのため、常用漢字表に沿った表記なら「覚える」が基本です。「記憶する意味だから必ず『憶える』」と考える必要はありません。

「覚える」と「憶える」の違い
「覚える」と「憶える」は、意味をきっぱり二つに分けて使い分ける言葉ではありません。実際には、「覚える」が広い意味で使える基本の表記で、「憶える」は記憶する意味の「覚える」の別表記として使われることがあります。
違いをざっくり整理すると、次のようになります。
| 比較する点 | 覚える | 憶える |
|---|---|---|
| 主な意味 | 記憶・習得・感覚など幅広い | 記憶に関する表現で使われることがある |
| 使える範囲 | 広い | 比較的限られる |
| 一般的な表記か | 一般的・標準的 | 「おぼえる」は常用漢字表に示された訓ではない |
| 表記上の位置づけ | 特別な意図なく使いやすい | 記憶する意味で表記の選択肢になることがある |
| 使用例 | 名前を覚える、仕事を覚える、違和感を覚える | あの日のことを憶えている、など |
特に気をつけたいのは、「記憶の意味なら必ず『憶える』」ではないことです。「昔のことを覚えている」「顔を覚えている」のように、記憶について書く場合でも「覚える」は普通に使えます。
「覚える」は記憶・習得・感覚まで広く使える
「覚える」というと、まず「英単語を覚える」のような暗記を思い浮かべるかもしれません。ただ、実際の使い方はもっと広く、大きく分けると記憶・習得・感覚の3つがあります。
- 記憶:名前を覚える、顔を覚える、昔のことを覚えている
- 習得:英単語を覚える、仕事を覚える、操作方法を覚える
- 感覚・感情:違和感を覚える、寒さを覚える

つまり、「覚える=勉強して暗記する」という意味だけではありません。記憶の意味でも自然に使えますし、何かを身につける場合や、感覚・感情が生じた場合にも使えます。
文化庁の常用漢字表でも、「覚」には「おぼえる」という訓が掲げられ、「覚える、覚え」という例が示されています。さらに「覚える」は、記憶・習得・感覚など複数の意味で使えるため、一般文章では使いやすい表記です。
「憶える」は記憶する意味で使われることがある
辞書では、記憶する意味の「覚える」について「憶える」とも書くとされています。そのため、「あの日のことを憶えている」のような表記も可能です。
ただし、ここから「心に深く残った記憶なら『憶える』」という決まりがあるわけではありません。「あの日のことを覚えている」と書いても自然ですし、こちらが一般的な表記です。
「憶える」は常用漢字表上の基本表記ではありませんが、記憶する意味で表記上の選択肢になる場合があります。「覚える」は浅い記憶、「憶える」は深い記憶、といった単純な区別をする決まりもありません。
「憶える」は間違い?常用漢字表での扱い
「憶える」と書くと間違いなのでしょうか。結論からいうと、「憶」という漢字そのものは常用漢字です。ただし、常用漢字表で「憶」に示されている読みは「オク」で、「おぼえる」は載っていません。
一方、「覚」には「カク」のほか、「おぼえる・さます・さめる」という読みが示されています。つまり、問題は「憶が常用漢字かどうか」ではなく、「憶」に「おぼえる」という訓が常用漢字表に掲げられているかどうかです。
この違いは、学校の漢字問題などでは特に大きくなります。国立国語研究所の「ことば研究館」では、中学生が「英単語を憶える」と書いて減点された事例が紹介されています。その説明では、常用漢字表で「おぼえる」の訓を持つのは「覚」であり、「憶」には「オク」だけが示されていることが、採点基準の背景として挙げられています。
ですから、学校の書き取りや漢字テストで「おぼえる」と書くなら、基本は「覚える」と考えるのがよいでしょう。
ただし、ここで「憶える=日本語として完全な誤り」とまでは言えません。国立国語研究所も、実生活では「憶える」を「おぼえる」と読めないことはほとんどないと説明しています。
要するに、常用漢字表に沿った基本の表記は「覚える」ですが、「憶える」も記憶する意味の表記として成立します。「憶」に「おぼえる」という訓が常用漢字表にないことと、日本語としてその表記が存在しないことは別の話です。
学校・ビジネス・創作ではどう使い分ける?
意味だけを見ると迷いやすい「覚える」と「憶える」ですが、実際にはどんな文章を書くのかで考えると判断しやすくなります。
学校や仕事など、正確さや読みやすさを優先する場面では「覚える」が基本です。一方、記憶する意味では「憶える」という表記も辞書に見られ、創作では表記上の選択肢になり得ます。

| 場面 | 基本の考え方 |
|---|---|
| 学校の漢字問題 | 「覚える」を使う |
| 作文・レポート | 特別な表現上の意図がなければ「覚える」が無難 |
| 公用文 | 常用漢字表の字種・音訓を踏まえ、「覚える」とするのが基本 |
| ビジネスメール・社内資料 | 特別な意図がなければ「覚える」が無難 |
| 一般的なWeb記事 | 特別な意図がなければ「覚える」 |
| 小説・エッセイ | 記憶する意味では「憶える」も表記上の選択肢になり得る |
学校・公的な文章・ビジネスでは「覚える」
漢字の書き取りや漢字テストでは、常用漢字表に「おぼえる」の訓が示されている「覚える」を使います。作文やレポートでも、特別な表現上の意図がなければ「覚える」を選ぶのが無難です。
公用文では、常用漢字表の字種・音訓を踏まえて表記するため、「おぼえる」を漢字で書く場合は「覚える」とするのが基本です。
では、民間のビジネス文書もまったく同じルールなのでしょうか。必ずしも公用文と同じ決まりで書く必要があるわけではありません。ただ、ビジネスメールや社内資料では、個性的な表記よりも読み手にすぐ伝わることが大切です。
その意味でも、「業務内容を覚える」「取引先の名前を覚える」のように、一般的なビジネス文書では特別な意図がなければ「覚える」の方が無難です。一般向けWeb記事でも、「覚える」とした方が分かりやすいでしょう。
小説・エッセイでは「憶える」も表記上の選択肢になる
小説やエッセイなどの創作では、常用漢字表だけに表記を限定しない場合があります。記憶する意味では、「あの日のことを憶えている」という表記も可能です。
ただし、思い出について書くなら「憶える」にしなければならない、というルールではありません。「あの日のことを覚えている」と書いても自然ですし、こちらが一般的な表記です。
「憶える」の方が正しい、あるいはより深い感情を表す、という決まりはありません。創作では、記憶する意味の表記上の選択肢として、文章全体の文体に合わせて選ぶとよいでしょう。
迷いやすい「覚える・憶える」を例文で確認
ここまでの違いを理解しても、実際に文章を書くと「この場合はどっち?」と迷うことがあります。そんなときは、意味を細かく考えすぎるより、よくある表現を見た方が判断しやすいです。
次の表では、「覚える」と「憶える」で迷いやすい例をまとめました。特に、記憶に関する内容でも「覚える」が基本になる点を見てみてください。
| 表現 | 基本の表記 | 理由 |
|---|---|---|
| 英単語をおぼえる | 英単語を覚える | 習得・記憶の意味で、標準的な表記だから |
| 操作方法をおぼえる | 操作方法を覚える | やり方を身につける「習得」の意味だから |
| 顔・名前をおぼえる | 顔・名前を覚える | 記憶の意味でも「覚える」が一般的に使えるから |
| 違和感をおぼえる | 違和感を覚える | 感覚・感情が生じる意味なので「覚える」を使うから |
| あの日のことをおぼえている | あの日のことを覚えている | 過去の記憶についても、一般的な表記は「覚える」だから |
| あの日のことを憶えている | 記憶する意味では表記可能 | 辞書で「覚える」の別表記として「憶える」も示されているため |
たとえば「顔を覚える」「昔のことを覚えている」は、どちらも記憶に関する表現です。それでも「憶える」に変える必要はありません。「記憶だから憶える」と機械的に判断しないことが大切です。
また、「違和感をおぼえる」のように、何かを感じる意味では、標準的には「違和感を覚える」と書きます。
同じ読み方で複数の漢字が変換候補に出て迷うことは、「ついていく」の表記でもよくあります。漢字を意味だけで単純に二分しない考え方を、こちらの記事でも整理しています。
まとめ|普段は「覚える」、表現として「憶える」を選ぶ場合もある
「覚える」と「憶える」で迷ったときは、普段の文章なら「覚える」を選ぶと考えておけば十分です。
- 「覚える」は、記憶・習得・感覚まで幅広く使える
- 「憶」は常用漢字だが、「おぼえる」という訓は常用漢字表に示されていない
- 学校・仕事・一般的な文章では「覚える」が基本
- 記憶する意味では「憶える」も表記上の選択肢になることがある
一般文章では「覚える」を基本にし、「憶える」は記憶する意味で表記を選ぶ場合の選択肢と考えるとよいでしょう。
「覚える」と「憶える」についてよくある質問
最後に、「覚える」と「憶える」で特に迷いやすい点をQ&A形式で整理します。
「憶える」と書くのは間違いですか?
「憶える」を全面的な誤りとまでは言い切れません。ただし、常用漢字表で「おぼえる」という訓が示されているのは「覚」です。
漢字の書き取りや漢字テストでは「覚える」を使います。仕事や一般的な文章でも、特別な意図がなければ「覚える」を基本にするのが分かりやすいでしょう。
「憶」は常用漢字ではないのですか?
いいえ。「憶」は常用漢字です。
ただし、常用漢字表で「憶」に示されている読みは「オク」で、「おぼえる」は載っていません。「憶」という字が常用漢字であることと、「憶」に「おぼえる」という訓が常用漢字表に掲げられていることは別の話です。
思い出について書くなら「憶える」の方が正しいですか?
いいえ。思い出や過去の記憶についても、「覚えている」が一般的に使えます。
記憶する意味では「憶えている」という表記も可能ですが、「思い出なら必ず『憶える』」という決まりではありません。
「おぼえる」とひらがなで書いても問題ありませんか?
一般的な文章では、文脈や読みやすさ、文章全体の表記方針によって「おぼえる」とひらがなで書く余地もあります。
ただし、学校の書き取りや漢字テストのように漢字で答えることが求められている場面では、設問や採点基準に従う必要があります。一般文章での表記選択と、漢字を問う問題は分けて考えましょう。
参考文献・参考資料

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